贔負目は恐ろしいものだ。 なまじい保護を受ければこそ、こんな兄に頭を下げなければならない。 ところがこの女はなかなか想像の強い女で、あなたはどこがお好き、麹町ですか麻布ですか、お庭へぶらんこをおこしらえ遊ばせ、西洋間は一つでたくさんですなどと勝手な計画を独りで並べていた。 下宿の五倍ぐらいやかましい。 目に涙が一杯たまっている。 大概顔の蒼い人は瘠せてるもんだがこの男は蒼くふくれている。 鉢の開いた頭を、こっちの胸へ宛ててぐいぐい押した拍子に、勘太郎の頭がすべって、おれの袷の袖の中にはいった。 第一方角が違う。 なぜ、おれ一人にくれて、兄さんには遣らないのかと清に聞く事がある。 おれはこの時からこの坊主に山嵐という渾名をつけてやった。 そのほか一人一人についてこんな事を書けばいくらでもある。 　母が死んでからは、おやじと兄と三人で暮していた。 ただ手車へ乗って、立派な玄関のある家をこしらえるに相違ないと云った。 もっともうらなりとは何の事か今もって知らない。