夕べは寝られなかった。 しかし清の眼から見るとそう見えるのだろう。 ところがこの女はなかなか想像の強い女で、あなたはどこがお好き、麹町ですか麻布ですか、お庭へぶらんこをおこしらえ遊ばせ、西洋間は一つでたくさんですなどと勝手な計画を独りで並べていた。 切符も訳なく買った。 兄とは喧嘩をする。 これは命より大事な栗だ。 卒業さえすれば金が自然とポッケットの中に湧いて来ると思っている。 清は十何年居たうちが人手に渡るのを大いに残念がったが、自分のものでないから、仕様がなかった。 このくらいの事なら、明後日は愚、明日から始めろと云ったって驚ろかない。 別に望みもない。 あまり気の毒だから行く事は行くがじき帰る。 こんな、狭くて暗い部屋へ押し込めるのも茶代をやらないせいだろう。 小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。 車夫は威勢よく山城屋と云ううちへ横付けにした。