数学の主任は誰かと聞いてみたら例の山嵐であった。 茶代なんかやらなければよかった。 好い気性なら清以外のものも、もう少し善くしてくれるだろうと思った。 鉢の開いた頭を、こっちの胸へ宛ててぐいぐい押した拍子に、勘太郎の頭がすべって、おれの袷の袖の中にはいった。 山嵐はおい君どこに宿ってるか、山城屋か、うん、今に行って相談すると云い残して白墨を持って教場へ出て行った。 人を馬鹿にしていらあ、こんな所に我慢が出来るものかと思ったが仕方がない。 五円の茶代を奮発してすぐ移るのはちと残念だが、どうせ移る者なら、早く引き越して落ち付く方が便利だから、そこのところはよろしく山嵐に頼む事にした。 宿屋へ五円やったから財布の中には九円なにがししかない。 道理で切符が安いと思った。 小使に負ぶさって帰って来た時、おやじが大きな眼をして二階ぐらいから飛び降りて腰を抜かす奴があるかと云ったから、この次は抜かさずに飛んで見せますと答えた。 西洋館も日本建も全く不用であったから、そんなものは欲しくないと、いつでも清に答えた。 見世物じゃあるまいし。 幸ナイフが小さいのと、親指の骨が堅かったので、今だに親指は手に付いている。 この辞令は東京へ帰るとき丸めて海の中へ抛り込んでしまった。