下女が雨戸を明けている。 　庭を東へ二十歩に行き尽すと、南上がりにいささかばかりの菜園があって、真中に栗の木が一本立っている。 　挨拶が一通り済んだら、校長が今日はもう引き取ってもいい、もっとも授業上の事は数学の主任と打ち合せをしておいて、明後日から課業を始めてくれと云った。 町はずれの岡の中腹にある家で至極閑静だ。 乱暴で乱暴で行く先が案じられると母が云った。 野蛮な所だ。 これはずっと後の事であるが金を三円ばかり貸してくれた事さえある。 太い孟宗の節を抜いて、深く埋めた中から水が湧き出て、そこいらの稲にみずがかかる仕掛であった。 しかし九円だって、どうかならない事はない。 この下女はもと由緒のあるものだったそうだが、瓦解のときに零落して、つい奉公までするようになったのだと聞いている。 折々は自分の小遣いで金鍔や紅梅焼を買ってくれる。 世話をしてくれるにしたところで、喧嘩をするから、向うでも何とか云い出すに極っている。 親身の甥よりも他人のおれの方が好きなのだろう。 そんなにえらい人をつらまえて、まだ坊っちゃんと呼ぶのはいよいよ馬鹿気ている。