おれは何が嫌いだと云って人に隠れて自分だけ得をするほど嫌いな事はない。 そんなえらい人が月給四十円で遥々こんな田舎へくるもんか。 今に返すよと云ったぎり、返さない。 これでもこの下女の面よりよっぽど上等だ。 気の利かぬ田舎ものだ。 心配にはならぬ。 兄はそれから五十円出してこれをついでに清に渡してくれと云ったから、異議なく引き受けた。 腹が立てば喧嘩の一つぐらいは誰でもするだろうと思ってたが、この様子じゃめったに口も聞けない、散歩も出来ない。 靴は磨いてなかった。 世話をしてくれるにしたところで、喧嘩をするから、向うでも何とか云い出すに極っている。 あなたがもう少し年をとっていらっしゃれば、ここがご相続が出来ますものをとしきりに口説いていた。 五円の茶代を奮発してすぐ移るのはちと残念だが、どうせ移る者なら、早く引き越して落ち付く方が便利だから、そこのところはよろしく山嵐に頼む事にした。 そんならついでに着物も袴も赤にすればいい。 しかし呼び付けるよりは感心だ。