しかし創痕は死ぬまで消えぬ。 なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。 独りで極めて一人で喋舌るから、こっちは困まって顔を赤くした。 おやじは頑固だけれども、そんな依怙贔負はせぬ男だ。 日が強いので水がやに光る。 腹が立てば喧嘩の一つぐらいは誰でもするだろうと思ってたが、この様子じゃめったに口も聞けない、散歩も出来ない。 それから英語の教師に古賀とか云う大変顔色の悪るい男が居た。 門から玄関までは御影石で敷きつめてある。 このくらいの事なら、明後日は愚、明日から始めろと云ったって驚ろかない。 　おやじはちっともおれを可愛がってくれなかった。 　兄とおれはかように分れたが、困ったのは清の行く先である。 教場の方が急にがやがやする。 鉛筆も貰った、帳面も貰った。 二日立って新橋の停車場で分れたぎり兄にはその後一遍も逢わない。