その弱点に乗じて僕が何度でも十円ずつ毎月得をするのさ 今晩こそ一つ出て行って兼て望みのヴァイオリンを手に入れようと、床の中でその事ばかり考えていました 一剣天に倚って寒し――ええ、面倒だ。 君は最初から負けても構わない流じゃないか 陽気ださ。 あなたが寒月さんですか。 もがけばがりがりと甕に爪があたるのみで、あたった時は、少し浮く気味だが、すべればたちまちぐっともぐる。 それから徒町から百騎町を通って、両替町から鷹匠町へ出て、県庁の前で枯柳の数を勘定して病院の横で窓の灯を計算して、紺屋橋の上で巻煙草を二本ふかして、そうして時計を見た。 おいそんな安いヴァイオリンがあるのかい。 今の人の自覚心と云うのは自己と他人の間に截然たる利害の鴻溝があると云う事を知り過ぎていると云う事だ。 なあに先生も何もありゃしない。 ああら物々し盗人よ。 今の人は親切をしても自然をかいている。 這裡の消息を知ろうと思えばやはり懸崖に手を撒して、絶後に再び蘇える底の気魄がなければ駄目だと独仙君はもったい振って、東風君に訓戒じみた説教をしたのはよかったが、東風君は禅宗のぜの字も知らない男だから頓と感心したようすもなく