それからなお読んで行くと御前なんぞは実に仕合せ者だ。 吾輩ははあと返事をした。 私しは船頭へー、君が船頭君にして船頭が務まるものなら僕にも見番くらいはやれると云ったような語気を洩らす。 之を天祐という幸に天祐を享けたる吾輩が一生懸命餅の魔と戦っていると、何だか足音がして奥より人が来るような気合である。 主人は絵端書の色には感服したが、かいてある動物の正体が分らぬので、さっきから苦心をしたものと見える。 加之こう知名の学者が名前を列ねている中に姓名だけでも入籍させるのは、今までこんな事に出合った事のない主人にとっては無上の光栄であるから返事の勢のあるのも無理はない。 行くよ必ず行くよ。 先日は君の紹介で越智東風と云う人が来たよああ上りましたか、あの越智東風と云う男は至って正直な男ですが少し変っているところがあるので、あるいは御迷惑かと思いましたが、是非紹介してくれというものですから……別に迷惑の事もないがね……こちらへ上っても自分の姓名のことについて何か弁じて行きゃしませんかいいえ、そんな話もなかったようだそうですか、どこへ行っても初対面の人には自分の名前の講釈をするのが癖でしてねどんな講釈をするんだいと事あれかしと待ち構えた迷亭君は口を入れる。 髯の張り具合から耳の立ち按排、尻尾の垂れ加減に至るまで同じものは一つもない。 彼は強い。 新年の御慶目出度申納候。 主人は床の方を見てあの水仙は暮に僕が風呂の帰りがけに買って来て挿したのだが、よく持つじゃないかと行徳の俎を無理にねじ伏せる。 それで面白い趣向があるから是非いっしょに来いとおっしゃるのでと客は落ちついて云う。 危きに臨めば平常なし能わざるところのものを為し能う。