あちらでもおぎゃあと生れるこちらでもおぎゃあと生れる。 行き当りばったりの多々良君は無論逡巡する訳がない。 その代りしまいまで謹聴しなくっちゃいけないよと念を押していよいよ本文に取り掛る。 どうして寒月の名を知っているのかいと主人が聞く。 煮て食うつもりか、とろろ汁にするつもりか 陰士の御蔭で二度とない悟を開いたのは実にありがたい。 それから？ 一分にも足らぬ間ではあったが、こう睨まれては寿命が縮まると思ったくらいである。 細君は――細君は何をしているか知らない。 帯までとって行ったのか、苛い奴だ。 現に聖書とか云うものにはその通りと明記してあるそうだ。 先生泥棒に逢いなさったそうですな。 しかし神ならぬ陰士はそんな女と知ろうはずがない。 東郷大将はバルチック艦隊が対馬海峡を通るか、津軽海峡へ出るか、あるいは遠く宗谷海峡を廻るかについて大に心配されたそうだが、今吾輩が吾輩自身の境遇から想像して見て、ご困却の段実に御察し申す。