どのくらい貯蓄したの？と細君は熱心に聞く。 先刻から袷一枚であまり寒いので少し運動でもしたら暖かになるだろうと云う考から主人はこの先例のない動議を呈出したのである。 この女がつらつら考えるには、どうも女が産婆になれないのは情けない、不便極まる。 男女間の交際だってそうさ、僕の小供の時分などは寒月君のように意中の人と合奏をしたり、霊の交換をやって朦朧体で出合って見たりする事はとうてい出来なかった御気の毒様でと寒月君が頭を下げる。 ところが日は暮れる、路は分らず、腹は減る、仕方がないから峠の真中にある一軒屋を敲いて、これこれかようかようしかじかの次第だから、どうか留めてくれと云うと、御安い御用です、さあ御上がんなさいと裸蝋燭を僕の顔に差しつけた娘の顔を見て僕はぶるぶると悸えたがね。 　今度はへっついの影で吾輩の鮑貝がことりと鳴る。 主人はようやく写真から眼を放して君この暑いのに蕎麦は毒だぜと云った。 寒いと頭巾で包む。 ある時は慾張って三四冊も抱えて来る。 決して鼠ではない。 その次には脳天を平らに刈って左右は真直に切り落す。 ――よく穿ってるだろう。 しかし動かんでも八方睨みを極め込んでいれば敵は小人だから大した事は出来んのである。 この頃でもジャムを舐めなさるか