人間も存外迂濶なものである。 　ここへ東風君さえくれば、主人の家へ出入する変人はことごとく網羅し尽したとまで行かずとも、少なくとも吾輩の無聊を慰むるに足るほどの頭数は御揃になったと云わねばならぬ。 それでいろいろ実験もしなくちゃなりませんがまず丸い硝子の球をこしらえてそれからやろうと思っています硝子の球なんかガラス屋へ行けば訳ないじゃないかどうして――どうしてと寒月先生少々反身になる。 きっと人が英語を知らないと思って悪口をおっしゃったんだよ 形体以外の活動を見る能わざる者に向って己霊の光輝を見よと強ゆるは、坊主に髪を結えと逼るがごとく、鮪に演説をして見ろと云うがごとく、電鉄に脱線を要求するがごとく、主人に辞職を勧告するごとく、三平に金の事を考えるなと云うがごときものである。 ――猫は駄目ですばい、飯を食うばかりで――ちっとは鼠でも捕りますか 早々棄てなさい。 旨まそうに深く吸って吐き出した煙りが、乳色のホヤを繞ってまだ消えぬ間に、陰士の足音は椽側を次第に遠のいて聞えなくなった。 七時半でしたろう 一体あなたの月給はどのくらいなのこれも細君の質問である。 ホホホホ多々良さんくらいなものでしょう 顔の道具は無論極っている、大さも大概は似たり寄ったりである。 　吾輩がかく夢中になって智謀をめぐらしていると、突然破れた腰障子が開いて御三の顔がぬうと出る。 まあ議論はいいが、それからどうするのだいと東風君、ことによると、やる了見と見えて筋を聞きたがる。