あまり女が好く体裁ではない。 いやーだと姉が云うと妹もすぐ真似をしていやーだとつける。 おやいらしゃいましと云ったが少々狼狽の気味でちっとも存じませんでしたと鼻の頭へ汗をかいたまま御辞儀をする。 いよいよ陰士とすれば早く尊顔を拝したいものだ。 ――猫は駄目ですばい、飯を食うばかりで――ちっとは鼠でも捕りますか 先生教師などをしておったちゃとうていあかんですばい。 牛飼やいろはの亭主じゃありません。 ――先生あの鈴木藤十郎と云う工学士を知ってなさるか いやな多々良さんだ、何だってそんな事を云うんです 潰れた帽子は麺棒で延した蕎麦のように平たくなる。 よって三面攻撃は起らぬと極める。 昨日までは綿入を二枚重ねていたのに今日は袷に半袖のシャツだけで、朝から運動もせず枯坐したぎりであるから、不充分な血液はことごとく胃のために働いて手足の方へは少しも巡回して来ない。 これに続く黒い影は後ろに廻るかと思う間もなく吾輩の尻尾へぶら下がる。 多々良さんの頭はどうしたのと真面目に聞いて見る。