おや君も首を縊りたくなったのかい 　障子の内で御師匠さんが二絃琴を弾き出す。 しかし寒月君の女連れを羨まし気に尋ねた事だけは事実である。 まず桃川如燕以後の猫か、グレーの金魚を偸んだ猫くらいの資格は充分あると思う。 それじゃ四時を過ぎればもう駄目なんだねと念を押して見たら、ええ駄目ですともと答える。 　寒月は例のごとく欠けた歯を出して笑いながらそれは残念でしたなと云う。 どうも私を呼ぶ声が浪の下から無理に洩れて来るように思われましてね。 それにこの人目を忍んで間食をするという癖は、何も吾等猫族に限った事ではない。 まるで人間の取扱を受けている。 しばらくすると下女が来て寒月さんがおいでになりましたという。 しかし自分が胃病で苦しんでいる際だから、何とかかんとか弁解をして自己の面目を保とうと思った者と見えて、君の説は面白いが、あのカーライルは胃弱だったぜとあたかもカーライルが胃弱だから自分の胃弱も名誉であると云ったような、見当違いの挨拶をした。 二時頃には御帰りになりますから、帰り次第すぐ上げますと云う返事である。 あの男はあれが癖でねと急にアンドレア・デル・サルト事件を思い出す。 おや君も首を縊りたくなったのかい