私しが船頭の仮色を使って、ようやく調子づいてこれなら大丈夫と思って得意にやっていると、……つまり身振りがあまり過ぎたのでしょう、今まで耐らえていた女学生が一度にわっと笑いだしたものですから、驚ろいた事も驚ろいたし、極りが悪るい事も悪るいし、それで腰を折られてから、どうしても後がつづけられないので、とうとうそれ限りで散会しました第一回としては成功だと称する朗読会がこれでは、失敗はどんなものだろうと想像すると笑わずにはいられない。 それに時々思い出したように一心不乱にかかりはするものの五六分立つと忘れてしまう。 主人は存外真面目である。 御師匠さんだわ。 その帰りがけにバルザックはふとある裁縫屋の看板が目についた。 また馬鹿な茶番見たような事なんでしょう。 不器量な野良猫は達者でいたずらをしているし……その通りでございますよ。 誰が何と云っても駄目だ。 しかし今日は無拠処差支えがあって出られぬ、いずれ永日御面晤を期すという端書があったので、やっと安心して、これなら心置きなく首が縊れる嬉しいと思った。 ようやく笑いがやみそうになったら、五つになる女の子が御かあ様、猫も随分ねといったので狂瀾を既倒に何とかするという勢でまた大変笑われた。 露西亜と戦争が始まって若い人達は大変な辛苦をして御国のために働らいているのに節季師走でもお正月のように気楽に遊んでいると書いてある。 万一の事を考えると今の内に有為転変の理、生者必滅の道を説き聞かして、もしもの変が起った時取り乱さないくらいの覚悟をさせるのも、夫の妻に対する義務ではあるまいかと考え出した。 どうしてもその希望を満足させて出掛けてやろうと云う気になる。 エピクテタスにそんな事をしろと書いてあるのか知らん。