吾輩もこの頃では普通一般の猫ではない。 どうかしてあすこの所へ人間を下げて見たい、誰か来ないかしらと、四辺を見渡すと生憎誰も来ない。 御三は御馳走を半分食べかけて夢から起された時のように、気のない顔をして餅をつかんでぐいと引く。 　そろそろ例の通りになって来たと主人は無言で微笑する。 目付でも、鼻付でも、毛並でも、足並でも、みんな違う。 やはり同日同刻じゃないかと迷亭がまぜ返す。 髯の張り具合から耳の立ち按排、尻尾の垂れ加減に至るまで同じものは一つもない。 その了解しかねる点に少しは恐しいと云う感じもあったが、今の話を聞いてから急に軽蔑したくなった。 母の生きているうちに天下をして明治の文壇に迷亭先生あるを知らしめたいと云う気になった。 小供は奥座敷で何とおっしゃる兎さんを歌っている。 　二匹と云う代りに二たりといった。 少し間が抜けたようだが別に名答も出て来なかったから仕方がない。 主人のようにアンドレア・デル・サルトを極め込んだものでもあるまいが、画家だけに形体も色彩もちゃんと整って出来ている。 大変淋しい感じがする。