主人は客間へ出て行く。 布団にして敷かれずんば、布団はまさしくその名誉を毀損せられたるもので、これを勧めたる主人もまた幾分か顔が立たない事になる。 花活にしちゃ、口が小いさ過ぎて、いやに胴が張ってるわ 女である以上はどうにか片付けなくてはならんくらいも承知している。 意気地のないところが上等なのである。 下の方に大きな木板で汝はと二字だけ見える、あとが見たいがあいにく露出しておらん。 いくら不恰好に作ろうと云ったって、こうまで念を入れて形を崩す訳にはゆかないだろう。 　その後三十分間は家内平穏、別段吾輩の材料になるような事件も起らなかったが、突然妙な人が御客に来た。 首尾よく煙に捲いたの？ やはり近過ぎるといかん。 それにもかかわらず敷かない。 伯父さん将軍家もありがたいかも知れませんが、明治の代も結構ですぜ。 尼などと云うものは元来意地のわるい女のうちでもっとも意地のわるいものであるが、この尼が主人の性質を見抜いたものと見えて自炊の鍋をたたきながら、今泣いた烏がもう笑った、今泣いた烏がもう笑ったと拍子を取って歌ったそうだ、主人が尼が大嫌になったのはこの時からだと云うが、尼は嫌にせよ全くそれに違ない。 ところが始末におえないのは坊ばである。