油壺なものか。 云わばごまかし性表情で、実を云うと大分骨が折れる芸術である。 これも精神病の徴候かも知れない。 主人はやむを得ず懐手のままのそりのそりと出てくる。 ――主人は恭しく八分体の名筆を巻き納めて、これを机上に置いたまま懐手をして冥想に沈んでいる。 何そんなものを借したんじゃありません 誰がって。 ところが始末におえないのは坊ばである。 自己を措いて他に研究すべき事項は誰人にも見出し得ぬ訳だ。 だけども、あの先生が、あんな長い顔なんでしょう。 自分が文章の上において驚嘆の余、これこそ大見識を有している偉人に相違ないと思い込んだ天道公平事実名立町老梅は純然たる狂人であって、現に巣鴨の病院に起居している。 吾輩だって出るのはいやだ。 こいつも読みたいがそれぎれで手掛りがない。 どっちが馬鹿だか分りゃしないと妻君ぷんとして箒を突いて枕元に立っているところは勇ましかった。