あら、くうとじゃないわ、くるとだわねととん子が口を出す。 掃除が例の通りであるごとく、主人の顔の洗い方も十年一日のごとく例の通りである。 虎蔵君と並んで立っているのは二十五六の背の高い、いなせな唐桟ずくめの男である。 へえ、驚ろいたな 但し竪に長いのなら世間にその例もすくなくないが、この子のは横に長いのである。 もし諸君がかかる際に冷淡以上を望んだら、それこそ人間を買い被ったと云わなければならない。 そうか帰るのかい、用事でもあるのかい 実を云うと、正式に坐った事は祖父さんの法事の時のほかは生れてから滅多にないので、先っきからすでにしびれが切れかかって少々足の先は困難を訴えているのである。 取払って捨てると思のほか、すぐ自分の口のなかへ入れてしまったのには驚ろいた。 なるほどえらいものだ、いくら逆か立ちしても大蔵卿である。 静岡の伯父に譲らざる東京通なるには恐れ入る しかし呑気な主人はこの頭とこの古風な姓名とを連結して、その連結したものをまた二年乙組に連結する事が出来なかったのである。 鰻も結構だが、今日はこれからすい原へ行く約束があるから、わしはこれで御免を蒙ろう こっちは三時間も待たされて、大切の時間を半日潰してしまったと日本服に着代えて平気に火鉢へもたれて油壺を眺めている。