主人もここまで来たらついでにおお怖いとでも云いそうなものであるがなかなか云わない。 それから主人は鼻の膏を塗抹した指頭を転じてぐいと右眼の下瞼を裏返して、俗に云うべっかんこうを見事にやって退けた。 髯はどうだと見るとこれはまた驚ろくべく、ぴん然とおっ立っている。 いや非常な人で、それでその人が皆わしをじろじろ見るので――どうも近来は人間が物見高くなったようでがすな。 いらないと云うから、還せと云うのさ。 主人は祭日とも知らずに学校へ欠勤届を出したのだろう。 へえ、何にしたものでございましょう どっちがいたずら者だか分りゃしない。 ええ、まあそうよ。 伯父さんは自分が楽なからだだもんだから、人も遊んでると思っていらっしゃるんでしょう だからさ、何が困るんだよ 坊ばはなかなか聞きそうにない。 名前はちゃんと書いてあるんだけれども聞いた事もない人だって、そうしてそれが長い長い一間ばかりもある手紙でね。 云えん事もないさ