どんな僥倖に廻り合わんとも限らんからねと迷亭は鈴木君に対しても主人に対するごとく毫も遠慮と云う事を知らぬ。 君がそれを留める権利はないなるほど権利は正にない。 ――なに？――毎度御贔屓にあずかりましてありがとうございます？――何がありがたいんだね。 ブラクストーンの説によるともし絞罪に処せられる罪人が、万一縄の具合で死に切れぬ時は再度同様の刑罰を受くべきものだとしてありますが、妙な事にはピヤース・プローマンの中には仮令兇漢でも二度絞める法はないと云う句があるのです。 よしんば、ちっとやそっと、何か云ったって小供じゃありませんか、髯面の大僧の癖にしかも教師じゃありませんか 令嬢の方でもたしかに意があるんだよ。 　吾輩と鈴木君の間に、かくのごとき無言劇が行われつつある間に主人は衣紋をつくろって後架から出て来てやあと席に着いたが、手に持っていた名刺の影さえ見えぬところをもって見ると、鈴木藤十郎君の名前は臭い所へ無期徒刑に処せられたものと見える。 一番大きいのはいくつになるかね、もうよっぽどだろう ――それでこれから力学的に第一の場合は到底成立すべきものでないと云う事を証拠立てて御覧に入れます面白いなと迷亭が云うとうん面白いと主人も一致する。 線が八本並んでもあとの句が出来ないと見えて、今度は筆を捨てて髭を捻って見る。 へへへへへもう水底から呼んではおりません。 出ればかまずにはいられません。 エルリントンは部下のものから鼻々と異名をつけられていた。 いらざる抵抗は避けらるるだけ避けるのが当世で、無要の口論は封建時代の遺物と心得ている。