三度以上繰返す時始めて習慣なる語を冠せられて、この行為が生活上の必要と進化するのもまた人間と相違はない。 なるほど主人は単純で正直な男だ。 迷亭は大きな声を出して奥さん奥さん、月並の標本が来ましたぜ。 石塔と相撲をとって大小三個ばかり転がしてしまったんだから 実業家は嫌いだから、実業家の片割れなる金田某も嫌に相違ないがこれも娘その人とは没交渉の沙汰と云わねばならぬ。 あの娘がか 人の許諾を経ずして吾妻橋事件などを至る処に振り廻わす以上は、人の軒下に犬を忍ばして、その報道を得々として逢う人に吹聴する以上は、車夫、馬丁、無頼漢、ごろつき書生、日雇婆、産婆、妖婆、按摩、頓馬に至るまでを使用して国家有用の材に煩を及ぼして顧みざる以上は――猫にも覚悟がある。 西洋の鳶口や掛矢は先生何と翻訳して善いのか習った事が無いんだから弱わらあねもっともだと主人は教師の身の上に引き較べて同情を表する。 その紐は売品にあるまじき紫色である。 そうだって、細君もそう云っていたよ。 教師よりもやはり実業家がえらいように思われる。 引き越す時に盗んで行きたかったくらいだ。 近頃でもその地球の――何かを勉強しているんでございましょうか二三日前は首縊りの力学と云う研究の結果を理学協会で演説しましたと主人は何の気も付かずに云う。 　二三日は事もなく過ぎたが、或る日の午後二時頃また迷亭先生は例のごとく空々として偶然童子のごとく舞い込んで来た。