奥様の鼻が大き過ぎるの、顔が気に喰わないのって――そりゃあ酷い事を云うんだよ。 　こう云われて見ると、先方で博士を請求するのも、あながち無理でもないように思われて来る。 Ｗは無論鼻の重量と御承知下さい。 あの迷亭君がおったもんだから、そう立ち入った事を聞く訳にも行かなかったので残念だったから、もう一遍僕に行ってよく聞いて来てくれないかって頼まれたものだからね。 一体誰に御聞きになったんですじきこの裏にいる車屋の神さんからですあの黒猫のいる車屋ですかと主人は眼を丸くする。 いえ御礼だから、どうか御取り下さいって車夫が云ったら――悪くいじゃあありませんか、俺はジャムは毎日舐めるがビールのような苦い者は飲んだ事がないって、ふいと奥へ這入ってしまったって――言い草に事を欠いて、まあどうでしょう、失礼じゃありませんか 君のようにそう真面目に解釈しちゃ困る ごもっともで、全く道楽からくる嘘だから困ります 御自分が好きで貰っておいて不具だなんて…… 鼻子は先ず初対面の挨拶を終ってどうも結構な御住居ですことと座敷中を睨め廻わす。 今日は諸君からひやかされに来たようなものだ。 生徒から先生番茶は英語で何と云いますと聞かれて、番茶は Savage tea であると真面目に答えたんで、教員間の物笑いとなっています、どうもあんな教員があるから、ほかのものの、迷惑になって困りますと云ったが、大方あいつの事だぜあいつに極っていまさあ、そんな事を云いそうな面構えですよ、いやに髭なんか生やして怪しからん奴だ髭を生やして怪しからなければ猫などは一疋だって怪しかりようがない。 なるほど迷亭君一流の特色を発揮して面白いと鈴木君はなぜだか面白がっている。 全体御前は誰だい。